2013年7月28日

【差押と相殺】 請求と反論、制限説のいいたいこと

制限説と無制限説の対立で有名です。S45年判例については次回。今回は何が問題となるのかというお話。

事例

A会社は、500万円の国税を滞納しているが、Y会社に対して売掛金債権600万円を有している。

Y社は、Aに対して650万円の貸金債権を有している(Yが貸金債権を取得したのは、Xの差押え以前)。

X(国)は、国税債権を回収するため、2013年5月7日に、AのYに対する売掛金債権を差し押さえた。

AのYに対する売掛金債権の弁済期は同年6月10日であり、YのAに対する貸金債権の弁済期は同年12月10日である。

現在は、同年12月20日とする。

1  XのYに対する請求を立てなさい。

2  Yのなしうる反論を論じなさい。

3  Xの請求が認められるか、Yの反論に対するXの再反論を考慮しながら述べなさい(次回)。



1  Xの請求

事例問題は主張反論形式で考えましょう。現実の紛争解決は当事者の主張と反論が繰り返されていくなかで行われていきます。論理的な口喧嘩です。主張反論形式で事例問題を考えることができるようになると、民法の理解がグッと深まります。

XはA社に税金を支払ってもらいたいです。でも支払いません。だから、A社がY社に対して持っている売掛金債権から回収を図ります。

Y社と法律関係にないXが、どうしてY社から支払ってもらうことができるのでしょうか?XがYに支払えと主張するためには、Xの請求に根拠が必要です。

そこでXは、売掛金債権を差し押さえたわけです(民事執行法143条)。債権を差押えてから(正確には、債務者に対して差押命令が送達された日から)1週間を経過すると、Xは、AのYに対する債権を「取り立てることができる」ようになります(民事執行法155条1項)。この「取り立てることができる」というのは、Xが、第三債務者Y社に請求して支払ってもらうことができる、ということを意味します。

整理しましょう。XがYに対して売掛債権の支払いを請求するためには、


  • Xが売掛債権を差押えること
  • 差押命令がYに到達してから1週間が経過すること


の2つが必要で、これで足りることになります。

実際には取立訴訟(民事執行法157条)を使う羽目になりますが、必須ではないです。

なので、答案では、①XがAに対して国税債権を持っていること、②Xが売掛債権を差押えたこと、③差押命令から1週間が経過したこと、を示して、Xの請求を立てましょう。


2  Yの反論


YはXに支払いたくありません。A社はY社に対して売掛債権を持っていますが、Y社もA社に対して貸金債権を持っています。そうすると、A社のフトコロ事情がピンチになってきた場合、A社が支払えと言ってきても、Y社は、相殺をすることでA社の支払い要求を突っぱねることができます。相殺によって、Y社は、A社から支払ってもらわない代わりに、自分の債務を支払う必要もなくなるわけです(自分の債務を引当てにしている、とはこういう意味です)。

それなのに、A社に対する債務をXに支払ってしまったら、Y社は、ひとり損をしてしまうでしょう。国税を滞納しているのに、A社が、Y社に対する債務を支払えるとはちょっと考えられないからです。

だからY社は、Xの請求に従いたくないのです。

そのために、Y社は相殺をします。相殺をして、Xの請求の根拠である、A社のY社に対する売掛債権を消滅させるのです。

相殺の反論は、


  • 相殺適状にあること(=両債権が対立していること+両債権が同種の目的を有すること+両債権が弁済期にあること。民法505条1項本文)
  • 相殺の意思表示(民法506条1項本文)


を主張してします。

Y社の反論はこのようになります。


3(1)  Xの再反論

Xは、Y社の相殺は認められないという再反論をします。再反論の根拠は、民法511条の反対解釈は無制限に認められる訳ではない→本事例は民法505条1項ただし書の「債務の性質がこれを許さない」場合である、というものです。

どうやって再反論をするのでしょう?ここで、各債権の弁済期を確認してみましょう。

A社のY社に対する売掛金債権(受働債権)の弁済期は、2013年6月10日です。

他方、Y社のA社に対する貸金債権(自働債権)の弁済期は2013年12月10日です。

Xが差押えたのは2013年5月7日ですから、そこから数日以内にY社に差押命令が送達されます。なので、XのY社に対する支払請求は、AのY社に対する売掛金債権の2013年6月10日から履行遅滞となります。

相殺は両債権が弁済期にあることが必要ですから、Y社が相殺できるのは、2013年12月10日以降です。

Y社としてはXに支払いたくありませんし、相殺したいです。ですからY社は、現在の2013年12月20日まで弁済を拒絶していたことになります。すなわちY社は、Xから請求を受けた後も、自らが履行遅滞に陥っているのにかかわらず、自働債権の弁済期が到来するまで弁済を拒絶していたわけです。

Y社の態度ちょっとどうなん? 「2013年6月10日に支払います」ってなってたのに、将来相殺できるなら、支払拒絶が正当化されるの?ズルくないか?

これが制限説のいいたいことです。

つまり、民法511条「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない」の反対解釈からすれば、

差押えを受けた第三債務者であっても、差押前に取得した債権によるならば相殺をもって差押債権者に対抗できる(無制限)

となりますが、この民法511条の反対解釈を制限して、

差押を受けた第三債務者が差押債権者に相殺を対抗できるのは、債権を差押前に取得したことだけではダメで、受働債権よりも自働債権の弁済期が先に来ていることが必要

と考えるべき、とするのです。

Xの再反論は以上のようになります。

Y社の相殺が認められるかが争点です。本問の問題点がみえてきました。問題点は、民法511条の解釈です。民法511条の解釈(反対解釈)はどのようにするべきか、というのが法的問題点です。

余談。民法511条の「支払いの差止めを受けた第三債務者は」とは、差押えを受けた第三債務者は、の意味です。差押命令を受けると、第三債務者は債務者への弁済を禁止される(=支払いの差止めを受ける)ことなるからです。民事執行法145条1項参照。


法律解釈は、いわゆる論点を学ぶことが中心です。何が問題で、それに対する考え方はどのようなものがあって、その理由は○○で・・・、といった具合ですね。法律を初めて日が浅いと、法律の勉強は唐突なものという感想を持ちます。何でそれが問題となるかが考えられないからです。一応教科書には書いてありますけど。主張反論形式で考えるクセがつくと、自分で問題点の所在を見抜けるようになります。問題点の所在を自分で見抜けるようになると、法律の学習がかなりやりやすくなります

主張反論形式で考えるのは大変です。とくに請求を立てる作業がキツイ。それに、主張反論形式で考えるためには、民法の知識だけでは足りず、民事執行法の知識が必要な場面が多々あります。民事執行法も必要です。

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