2013年9月24日

二段の推定の1段目の推定

1段目について。2段目はこちら

文書は有力な証拠です。文書なしでは立証活動はままなりません。裁判官は、提出された文書を見て、読んで、その記載内容から証拠資料を得ます。売買契約書が提出されれば、裁判官がそれを読んで、「売買契約があったらしいね」と判断するでしょう。これを書証(文書の証拠調べ)といいます。

文書はホンモノでなければ意味がありません。売買契約の存在を立証するため売買契約書を提出したところで、いくらその契約書がそれっぽいものであったとしても、売買契約をでっちあげるために偽造されたものであったなら、裁判官は売買契約の存在を認定してくれません。だから、書証手続はまずその文書がホンモノであることを調査することから始まります。

このことを文書の形式的証拠力といいます。形式的証拠力とは、文書の記載内容が作成者の思想の表現であると認められることです。「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない」とされていますが(民事訴訟法228条1項)、形式的証拠力が肯定されることは文書の成立が真正であることを意味します。つまり、文書の成立が真正であるとは、文書が作成者の意思に基づいて作成されたこと(形式的証拠力が認められること)、すなわちその文書はホンモノであるということを指します。

実質的証拠力とは「証拠力」とか「証明力」のことです。

私文書の場合、「本人又はその代理人の署名又は押印があるとき」には、その私文書が真正に成立したと推定されます(民事訴訟法228条4項)。文書が真正であるとは文書が作成者の意思に基づいて作成されたという意味ですから、「本人又はその代理人の署名又は押印があるとき」とは、本人又はその代理人が自らの意思に基づいて署名・押印をした場合を指します。

署名があって、その署名が本人・代理人の筆跡と同じなら、その署名者たる本人・代理人の意思に基づいて署名がなされたと考えることができます。

じゃあ押印の場合はどうかというと、最判昭和39年5月12日(民集18巻4号597頁)は、文書上の印影が、作成名義人の印章によるものと一致する場合には、反証がない限り、作成名義人の意思に基づいて印影が成立したものと推定される、としました。

この判示と民事訴訟法228条4項を組み合わせたものが二段の推定と呼ばれています。つまり、先の判例によって、
  • 1段目の推定:印影(ハンコの跡)が、作成名義人の印章(ハンコ)と一致する→その印影は作成名義人の意思に基づいて押されたものである
ことになります。1段目の推定によって、「印影は本人・代理人の意思に基づいて押印されたものである」ことが得られました。これを民事訴訟法228条4項に当てはめますと
  • 2段目の推定:印影が作成名義人の意思に基づいて押されたものである→その私文書は真正に成立したものである
ことになります。

1段目の推定は、「ハンコは大事に扱われるし、理由もなく他人に使用されることはまずないから、ハンコが押されているのなら、持ち主が自らの意思に基づいて押印したはず」という経験則に基づく事実上の推定です。だから、争う相手方からすれば、押印は自らの意思に基づいてなされたものではないことを反証すれば、1段目の推定が覆ります。

今日はここまで。2段目はこちら

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