2014年1月27日

「所有の意思」をめぐる攻防① 他主占有事情(権原)と自主占有事情

「所有の意思」について。


長期取得時効の要件、主張を要する事実


長期取得時効の要件は、「二十年間」の占有、「所有の意思」による占有、「平穏」かつ「公然」な占有、「他人の物」の占有(民法162条1項)と、時効援用の意思表示(145条)です。が、民法186条1項・2項と最判昭和42年7月21日民集21巻6号1642頁(百選Ⅰ43事件)によって、長期取得時効を主張する人は、開始時と20年経過時に占有していたこと+時効援用の意思表示を立証するだけですみます。

占有が「所有の意思」によることは時効成立を主張する側ではなく、時効成立を争う側が反対事実の立証責任を負います。時効成立を争う側は占有が他主占有であること(所有の意思を伴わない占有であること)を立証しなければならないのです。

これは民法186条1項が暫定真実を定めているからです。占有している事実そのものから、当該占有が「所有の意思を持って、善意で、平穏に、かつ、公然と」占有していることが推定されるのです。暫定真実とは、ある法律効果発生の要件が複数の要件事実から構成される場合において、特定の要件事実が確定されたときに、他の要件事実の存在を推定する場合のこといい、ただし書に読み替えるのと同じ効果をもたらします。つまり民法186条1項によって、民法162条1項は「20年間他人の物を占有した者はその所有権を取得する。ただし、『所有の意思を持って平穏かつ公然に占有』しなかったときはこの限りではない」という規定に様変わりするわけです。

「所有の意思」の判断


「所有の意思」は占有取得原因の権原につき、客観的に判定されます。売買や交換に基づく占有は自主占有ですが、貸借、寄託などに基づく占有は他主占有ですので「所有の意思」は認められません。

で、時効を争う側が所有の意思がないこと(他主占有であること)を立証するには、他主占有事情ないし他主占有権原を主張すればよいです。これを判示したのが最判昭和58年3月24日民集37巻2号131頁です。「お綱の譲渡し」事件です。この事件では、

「占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実(他主占有権原)が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情(他主占有事情)が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず」その所有の意思は否定される
と判示されました(赤字はY2による)。他主占有権原とは、占有が賃借とか寄託に基づくことを直接証明するものです。他主占有事情とは、占有が他主占有権原によって始まったとはいえない場合でも「所有の意思」が否定されるような具体的事実を指します。

時効を争う側が他主占有権原ないし他主占有事情を立証した場合、時効を主張する側が占有に「所有の意思」があること(自主占有であること)を示す事実(自主占有事情)を証明します。自主占有事情とは「外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情」です(最判平成8年11月12日民集50巻10号2591頁)。

ここでは時効を争う側の立証活動を待って時効を主張する側が自主占有事情の立証活動に入っていることに注意してください。通常、「所有の意思」の立証責任は時効を争う側が負うので、時効を主張する側は他主占有ではないかもしれないという心証を裁判官に与える程度の立証活動で足ります。

以上です。

次回予告


自主占有事情のところで最判平成8年11月12日民集50巻10号2591頁を引用しましたが、この判例には注意が必要です。相続が民法185条の「新たな権原」にあたるという主張をして時効成立を主張する場合は、「所有の意思」をめぐる立証活動は上で述べたようなものではなくなることを示しました。次回はこれについて。→次回(「所有の意思」をめぐる攻防②)

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