2014年1月31日

【賃貸借】承継される敷金、承継されない敷金

判例の結論は
  • 敷金を交付した賃借人にとって承継される方が有利か否か
で理解できます。

人の交代の場合


敷金は承継されます(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁。不動産百選35事件)。承継されるのは旧賃貸人に対する未払賃料を除いた残額ですけど。賃貸人が交代した場合に新たに敷金を交付しなければならないとなると、賃借人にとっては自分の関与できない事情によって経済的負担を負うことになるからです。この場合は、敷金が承継される扱いの方が敷金交付者たる賃借人に有利なのです。

注意が必要なのは、このような扱いは賃貸人の交代が賃貸借継続中に生じた場合を想定していることです。賃貸人の交代が賃貸借終了明渡し前に生じた場合は、敷金は承継されません(最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁)。敷金の返還は賃貸借終了時の賃貸人にするからです。賃貸不動産が譲渡されると賃貸人の交代が生じますが、これについて賃借人の承諾は不要です。賃貸借終了後の目的不動産の譲渡によって敷金が承継されるとすると、賃貸不動産を転々譲渡することで賃借人に返還請求の相手を特定させないようにし、賃借人が事実上敷金の返還を受けられない事態が生じてしまいます。これでは賃借人に不利なので、賃貸借終了後明渡し前の賃貸人の交代では敷金が承継されない扱いになります。

人の交代の場合


特段の事情がない限り、承継されません(最判昭和53年12月22日民集31巻9号1768頁。百選Ⅱ61事件)。敷金は敷金を交付した賃借人が賃貸人対して負う賃料その他の債権を担保するものなので、交付者たる賃借人の債務を控除して残額があれば返還されるべきです。承継されない方が賃借人にとって有利なのです。新賃借人に承継されるとなると、新賃借人にとってはラッキーですが、旧賃借人にとっては返還されるべき金銭を失いますので不利です。

特段の事情については百選Ⅱ61事件参照。

以上です。

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