2014年4月22日

弁済による代位と財団債権性・共益債権性の承継①

百選(5版)48事件に新しく収録された最判平成23年11月22日民集65巻8号3165頁(①事件)と、最判平成23年11月24日民集65巻8号3213頁(②事件)について。

問題点の所在を把握したり、百選の解説を理解するためにはもう少し補足説明が必要だと思うので、メモしておきます。主張反論形式で。

まずは①事件から。

原告の主張


A社は、平成19年8月29日に破産手続開始決定を受けたが、Xは、Aが破産手続開始決定を受ける前に、Aの代表者からの懇請を受け、従業員9名に対してAに代わり同年7月分の給料債権(237万7280円)の立替払をした(百選の事実の概要より引用)。

この給料の支払いは、Xが立替えるものであることが従業員に伝えられ、従業員らは礼を述べてこれを受領しました。

なお、Xが立替払に至る経緯は次の通りです(省略可)。

Aは、新聞販売事業等を業とする株式会社です。Xは、破産会社が顧客に配る洗剤等の日用品を約20年間に渡って納入していました。

A社では、従業員の給料を、25日締めで翌月16日に支払われていました(アルバイトは翌月11日)。ですが、7月分の給料の支払いは、アルバイト16日・正社員20日に後れることとなっってしまいました。A社は、取引先の売掛金をすべて回収できれば従業員の同年7月分の給料を支払うことができたが、大口の売掛先から支払いを得られそうにない状況でした。

従業員に対する7月分の給料のうち、アルバイトに対する給料(263万0967円)および一般従業員に対する給料(139万4465円)を支払うことはできましたが、管理職従業員に対する給料を期日に支払うことは困難でした。

このような状態のときに、従業員5名が社長室に現れ、「給料は本当に支払われるのか」と尋ねられることがあり、また、A社の代表は、経理担当の者から、「従業員が給料が払われないと仕事をしないと言っている」と聞いていました。

A社社長は、これ以上給料が遅れると新聞の欠配が起こるのではと懸念し、それだけは避けなければという思いから、かねてから取引のあるXに対し、従業員の給料の不足分を立て替えてくれるように懇請しました。Xはこれを了解しました。

これに対して、申立代理人弁護士は立替払などしなくてよい、給料は管財人が支払えばよいといって怒りました。しかし、Xは、税理士から「給料は優先権があるから大丈夫」という意見を聞き、給料の立替払をしました。

弁済による代位の要件は、①弁済などによる債権者の満足、②求償権があること、③債権者の承諾(民法499条2項)または弁済者に弁済の正当な利益がある(民法500条)ことの3つです。弁済をするについて正当な利益を有する者(民500条)とは、弁済をするについて利害関係を有する者です(民474条2項反対解釈)。

本件では、①Xの立替払による従業員の満足、②XはA社との委任または準委任契約に基づき、給料債権について弁済をしたから、委任事務処理費用の償還請求権(民法650条)として求償権を取得した、③従業員が礼を言って立替払を受け取っていることから、債権者の承諾もあります。

したがって、Xは、A社従業員がA社に対して有していた給料債権を、弁済による代位によって行使することができます(民法501条)。

そして、Xの行使する従業員の給料債権は、破産手続開始前月の給料債権でしたから、財団債権です(破149条1項)。財団債権は、破産債権に先立って(破151条)、破産手続によらないで、随時弁済を受けることができます(破2条7項)。

ゆえに、Xは、A社の破産管財人Yに対して、従業員に代位して給料債権の支払いを請求します。

被告の反論 その1


破産法149条の趣旨は、労働債権の中でも、破産手続開始直前の労働の対価に相当する部分は、労働者の当面の生活維持のために必要不可欠であり、破産手続開始後直ちに確実な弁済を受けることが望ましいという点にあります。だから、使用人の給料等が一定の範囲で財団債権とされているのです。

そうすると、第三者が破産手続開始前に給料を立替払した場合には、労働者保護の必要性という上の目的は達成されていることになります。何はともあれ給料は支払われたからです。

この場合に、立替払をした第三者が弁済による代位によって取得した原債権を財団債権として扱うことは、労働債権保護という政策目的を超えるものです(百選の事実の概要、(a)、(b)の意味)。

Xは「破産者の使用人」ではないので、Xが代位によって行使する給料債権の財団債権性は消滅している、と考えることも可能です。

被告の反論 その2


弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保するために、法の規定によって弁済により消滅するはずの原債権及び担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者が求償権の範囲内で原債権及び担保権を行使することを認める制度です(最判昭和59年5月29日民集38巻7号885頁・民法百選Ⅱ39事件)。さらに、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求償権を確保することを目的とする付従的性質を有します(最判昭和61年2月20日民集40巻1号43頁)。

Xが立替払によって取得した求償権は、破産手続開始前の委任または準委任契約に基づいて生じた財産上の請求権であるから、破産債権です(破2条5項)。破産債権は、個別的権利行使が禁止されます(破100条1項)。

そうすると、原債権の求償権に対する付従性によって、求償権が破産債権である場合には、破産債権が行使できる範囲で弁済による代位によって取得した原債権を行使できるにすぎない→給料債権は財団債権性消失、と考えることも可能です(百選の事実の概要、(c)の意味)。

以上の2点から、被告Yは、Xの個別的権利行使は認められないと反論します。

問題点の所在


問題点の所在は、以下の通りとなります。

  • 「破産者の使用人」ではない者が弁済による代位によって取得した給料債権は、財団債権性を承継しているのか

  • 求償権が破産債権である場合にも、原債権が財団債権である場合には、財団債権の性質を有する原債権を行使できるのか

判旨


百選他参照のこと。この問題を考えるに当たっては、伊藤眞「財団債権(共益債権)の地位再考」金融法務事情1897号12頁が参考になります。

以上です。②事件はこちら

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