2013年8月7日

物上代位③ 「民法304条1項ただし書の差押えの趣旨」と「『民法372条が準用する』304条1項ただし書の差押えの趣旨」

物上代位の勉強は、先取特権の最判昭和60年7月19日民集39巻5号1326頁=S60判決(&最判平成17年2月22日民集59巻2号314頁=H17判決)と、抵当権の最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁=H10判決を比較することが大事です。

先取特権の物上代位についての解説はこちら

抵当権の物上代位についての解説はこちら


上記判決において、裁判所は、

  • 民法304条1項ただし書の差押えの趣旨は第三債務者&第三者の保護
  • 372条が準用する304条1項ただし書の差押えの趣旨は第三債務者を保護すること(第三者の保護は目的としていない)
と判示しました。


これはなぜか。それは差押えの機能が異なるからです。

先取特権は、法律の規定する原因があれば当然に発生します。たとえば、動産の売買契約が締結されれば、売買代金債権を担保するために、先取特権が発生しているのです(民法311条5号・321条)。この売買契約は、当事者間ではあったことがわかりますが、当事者以外の人=世間一般にはわかりません。誰が誰に何を売った・買ったのかなんて、普通公表しません。だから、動産が転売されて(民法333条参照)、先取特権に基づく物上代位権が発生しているとしても、その転売債権に先取特権の効力が及んでいることなんて、普通分からないのです。第三債務者の転買人からすれば、債務者である転売人に代金を払えばよいと思っているのが普通です。第三者の債権譲受人からすれば、債権譲渡の目的となった転売債権には、面倒なことが付いていないと思うのが普通です。物上代位権の行使によって、第三債務者にとっては誰に弁済するべきかが変わり、第三者にとっては譲渡された債権を行使できない可能性が明らかになります。

ですから、先取特権に基づく物上代位の場合は、差押えが対抗要件類似の機能を営むと考えるべきなのです。

つまり、この差押えには、「転売債権には動産売買の先取特権の効力が及びましたよ!」と世間にアピールする機能がある、という意味です。


これに対して、抵当権の場合は、その存在が登記されますから、抵当権に基づく物上代位の差押えに対抗要件類似の機能を認める必要はありません。抵当権の目的となった不動産から生まれる賃料などの価値代償物は民法372条・304条1項によって物上代位の対象となることが明らかになっていますし、当該不動産に抵当権があることは登記で公示されています。ですので、賃料債権に抵当権の効力が及んでいることは登記でアピールされているわけです(賃料債権に物上代位できるかということも論点になりますが・・・。賃料債権を譲り受ける人は抵当権設定登記が存在するかどうかをチェックする必要があるということなんですね・・・)。

つまり、抵当権に基づく物上代位の差押えには、第三債務者である賃借人に、物上代位権が行使されたよ!とアピールする機能しかないわけです。第三者である賃料債権の譲受人にとっては、登記がそれをアピールしていると考えるわけです。債権譲渡は、第三者にとっては影響がありますが、第三債務者の利害には影響がありません。第三債務者からすれば、誰に払うかの違いしかないからです。だから、債権譲渡を「払渡し又は引渡し」に含まれないと考えることができたのです。こちらは、差押命令と債権譲渡の対抗要件具備ではなく、登記と債権譲渡の対抗要件具備で優劣が決まるとされました。


このような違いに起因して、同じ条文なのに趣旨目的が違う事態が生じたのです。

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